一匹の鯨に七浦賑わう

エンターテインメント殴り語り

「とろぐちょサキュバス」はタイトル通りの内容でタイトルの100倍酷い惨状なので最高だ

 やられた、と思った。

 ここ最近はアンテナを張ることをおろそかにしていたので、突然鈍器で殴られたような衝撃だった。よくよく見ると2020年に完結済とある。リアタイで追いたかった。

 何かというと「とろぐちょサキュバス ~クソ雑魚サキュバスがスライムと一緒にエグい成長し続けて冒険者とかをとろぐちょセックスでアクメさせまくる話~*1という小説の話だ。

とろぐちょサキュバス ~クソ雑魚サキュバスがスライムと一緒にエグい成長し続けて冒険者とかをとろぐちょセックスでアクメさせまくる話~

「いかにして興味を引くか」の核実験場になっているWeb小説界隈では、異様にタイトルの長い作品は珍しくない。可処分時間は有限である。氾濫するコンテンツの荒波を渡るために、読者も読む前からどんな内容でどんな話なのか知りたがるのは当然のことだろう。

 それにしてもこのタイトルはちょっと身も蓋もなさすぎやしないか。そう思ったのがページを開いたきっかけである。しかしながら、まんまと乗せられた。あっという間に引き込まれてしまった。めちゃくちゃ面白い。

 この作品は、マジのガチで「クソ雑魚サキュバスがスライムと一緒にエグい成長し続けて冒険者とかをとろぐちょセックスでアクメさせまくる話」を積み重ね、次々とファンタジー世界の生態系、文化、営み、信仰など何もかもを破壊していく一大スペクタクル物語だ。

 読み終えてからドバドバと溢れ出るパトスを抑えきれず、ひたすら文字を打込んでできたのがこの感想文だか紹介記事だかよく分からない文章である。

 

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読書中の脳内の様子



 

ここからは核心に触れている部分もあるので、タイトルにちょっとでも引っかかるものがあればこんな記事なんて閉じて早く読み進めてほしい。あと当然ながらR-18作品なので未成年は回れ右してください。

 

 ネタバレありと書いたが、特に気にせず読み進めてもらって問題ないと個人的に思う。そもそも表題に書いてあることが全てであるし、恐ろしいことにこの作品は各話タイトル一語一句そのままのことしか起きない*2

 だが、想定を上回る惨状が引き起こされ、何もかもドロドロのぐちゃぐちゃになってしまう様は間違いなく読者の想像を超えるだろう。

 

ただのえっちな小説だとナメてかかったらディザスター、パンデミック、パニックホラーものだったし人は死ぬ

 物語はクソ雑魚くて発生直後に死ぬはずだったサキュバスとスライムが奇跡的にマッチングしたことに端を発する。サキュバスの愛液やら体液を啜ったスライムはどんどん肥大化し、スライムに犯され続けるクソ雑魚サキュバスは膨大な快楽を溜め込んで成長する。スタート時点でノーベル賞ものの永久機関が誕生したのだ。

 サキュバスの体液には媚薬成分が含まれており、それをひたすら摂取し続けたスライムにも当然媚薬効果があるのでセックス快楽を知る生物なら近づいただけでも発情してしまう。しかもサキュバスから際限なくエサが供給されることで媚薬スライムは分裂・増殖を繰り返し、とんでもない数と大きさに膨れ上がっている。おまけに格上の相手に対しても果敢に飛びかかる習性を持ち、愛液や精液をしゃぶりつくすために体中を舐め回す熟練のテクニックまで学習しているのだ。

 媚薬スライムはクソ雑魚サキュバスの経験からウルトラテクでアクメ、射精させて体液を啜ることに最適化されており、獲物の命を奪うことはない。しかしながら捕まったら最後、哀れな犠牲者は死ぬまで快楽攻めに合い、体液という体液を絞り取られ、快楽に脳を焼き切られて死ぬのだ。

 そんなヤバい存在が森に生まれたらどうなる?発情した獣はスライムに捕えられて死に絶え、森の生態系は狂い、遊びに行った子どもは村に戻らず、不審に思い捜索に出た冒険者が消息を絶ち……やがてそれは森から現れた。破局の始まりと共に。

 さながら、ワールド・ウォーZの人類敗北バージョンである。人類はゾンビではなくクソ雑魚サキュバスと媚薬スライムに敗北する。

 そういう物語である。

 

サバイバルセックスバトルのあまりの迫力に泣き出してももう遅い

  本作において、サキュバスにとってのセックスとは捕食行為であり、獲物となる生物の快楽堕ちは死を意味する。本当に死ぬ。名前付きの登場人物の大体が死ぬしモブはもっと死ぬ。みんな腰を振って絶頂しながら死ぬ*3

 じわり、じわりと広がってゆく快楽。むせかえるような媚薬の匂い。徐々に蕩け出す理性。

 理性をもつ生物にとって正常な判断を保てなくなるのは命に関わる問題だ。しかもセックス快楽ときた。発情した獣に堕するなどもってのほかだ。故に、このサキュバスとスライムを見て慢心したり油断する者はいない。誰もがこの事態に生命の危機を覚え、あるいは強者の気配に胸を躍らせ、武器、人員、その他持ちうるもの全てを総動員する。どちらが生存(いき)るか死滅(くたば)るか、ここにクソ雑魚サキュバスとの命がけのセックスバトルが始まった。

 あるものは地面に大穴を空け森ごと沈め、あるものは理性があるうちに頭を噛み砕かんと顎を開き、またあるものは快楽に動じぬ機械人形をけしかける。ただスライムの物量で全てを飲み込まんとするサキュバスに対し、相対する者たちは知恵と策、あるいは恵まれた肉体でもって対抗する。戦いはどんどんインフレしていき、中盤以降は息をもつかせぬ攻防の様相を呈するようになり、そして皆♡まみれになって敗北する*4

 誤解しないでほしいのが、これがただシチュエーションを羅列しているだけではないということだ。この世界にはこの世界の文化、生活、ルールがあり、想像力が十分膨らむほどの情報開示が丹念な地の文によってなされている*5奴隷の少女から魔王に至るまで、サキュバスに対峙する彼らには彼らの人生があり、その人物造型には共感や理解を抱けるだろう。

 だからこそ、敗者に待ち受ける敗北公開アクメの無様さが耐え難いのだ。

 稀代の錬金術師が、精悍な姫騎士が、切れ者の軍師が、次々と敗れ去ってゆく。

 自らに絶対の自信があるものほど、そのあんまりにもあんまりな恥辱に自尊心をズタズタにされ、一方で経験したことのない興奮によって理性が蒸発し快楽で脳を焼き切れていく。そうなれば後に残るのはただ腰を「ヘコ♡ ヘコ♡」するだけのオス肉、メス肉しかいない。先ほどまで共感や理解を抱いていた者がソレだ。

 その辺の野犬も勇敢な冒険者も700歳エルフ賢者もゲス盗賊頭領も美貌の吸血鬼もみーんなぐちゃぐちゃのドロドロだし、相棒への信頼感も秘めたる思いも競争心も身分格差も師弟関係も強者の自負も全部セックス快楽の苗床になって蹂躙される様は侘しさすら覚えてしまう。無様敗北の魔術師である。

 物流は途絶えて餓死者が出るし、街は荒くれがのさぼるようになって治安は悪化し、安価なドラッグ*6が流通するようになり、対スライム障壁は決壊する。ともすれば重厚長大な群像劇になりえたであろう異世界が、とろぐちょセックスで押し流されてゆく。世界がサキュバスとスライムに犯され、崩壊の一途をたどってゆく様は破滅のカタルシスに満ち溢れている。さながら車をバカスカ大破炎上させるマイケル・ベイや、病院や空港を丸ごと爆破するクリストファー・ノーラン作品のようだ。

 

 そして、世界が終末を迎える直前、クソ雑魚サキュバスとおチンポ勇者による世界救世を賭けたセックス頂上決戦が勃発する。

 

世界を変革する極大な百合物語に崩れ落ち跪け

 『囀る法悦のズィルゥ』、というサキュバスがいる。

 彼女は人間にボコボコにされ死にかけたところで、命を繋ぐためサキュバスの少女の根城である森に無断で侵入し、格の違いを見せつけられて配下に下った野良サキュバスだ。 サキュバスの少女のとろぐちょレズセックスの洗礼でズィルゥは身も心も『女王様』である彼女の虜となり、自ら「下僕」「所有物」「専用アクメ肉」に成り下がったが、サキュバスの少女にとっても彼女は特別だった。初めて出会った同族であり、何より快楽で死なないのである。

 二人にはとろぐちょレズセックスができればそれで大満足なのだが、一人と一匹だけでもえらいことだったのに、もう一人サキュバスが増えるともはや手がつけられなくなるのは自明である。媚薬スライムが際限なく産み出されるので人間や魔族はもちろん黙っていない。どうにかしないと領土がぐっちょぐちょに侵食されるからだ。

 ズィルゥにとって『女王様』とのとろぐちょセックスのない世界なんて耐えられない。なにしろ『女王様』はいくら快楽で魔力を溜め込んでいるとはいえクソ雑魚サキュバスである。矢を射かけられたら普通に死ぬし快楽が通用しないものに攻め込まれたらひとたまりもない。

 なのでズィルゥは考える。矢が届く距離に近づかれる前に射精するがごとく親スライムから子スライムを噴射狙撃させて戦闘不能に陥れ、快楽を感じない機械人形には命令術式を逆ハックし術者の脳に直接快楽を流し込んでセックス廃人化させ、いずれ目を付けられるであろう魔王に対しては先手を打ってカチコミをかけ、快楽死で人間が絶滅する前に王都に侵攻し調停を結ぶ。そのための尖兵として人間とスライムを組み合わせた生体鎧を生み出した。これは人間をスライムでぐちょぐちょに犯す動作によって身体を自在にコントロールするもので、繊細な動きに特化した媚薬スライムだからこそできる芸当である。*7

 二人には世界征服の野望も他種族への憎悪も殺意もない。マジでとろぐちょレズセックスするために生きているといっても過言ではない。しかしエコシステムの逸脱者は排除されなければならない。それは創生の女神の意志である。

 それでも二人は決して諦めずとろぐちょレズセックスすることを選んだ。勇者のおチンポに何度分からせられかけても世界に挑んだ*8

 果たして、快楽は救済に、セックスは祈りに変わる。

 結果として、二人は世界の方を創り変えてしまった。冗談でも比喩でもなく「二人で世界をめちゃくちゃにしちゃった」のである。この世界変革のあまりにもアレでコレな展開に思わず私は目を剥き、腰が砕け、脚がガクガクし、涙が出るほどの感動すら覚えてしまった。正気の沙汰ではないと思うと同時にこの物語にふさわしすぎる顛末だ、と納得してしまう。した。

 詳細についてはぜひ自分の目で確かめてほしい。「えっちな小説と思ったらディザスター、パンデミック、パニックホラーものだった」と書いたが、それも違う。世界から拒絶されてもなお固く契られた極大な百合物語*9がここにある。

 

(終わりです)

 

*1:以下「とろぐちょサキュバス」と呼称する。

*2:例えば8話のタイトルは「想像より遥かに巨大な媚薬スライムがサキュバスと同時に来たので村が滅ぶ話」であり、当然村は滅ぶ。

*3:生き残ったものは生命力が強くて死んでないか、ギリギリ死なない程度の甘イキ地獄を味わされているだけで既に快楽に脳を焼き切られてセックス廃人になっている。見ていてつらい。

*4:戦いが佳境に近づくほど語尾の♡は増え、♡♡♡♡のMAX状態になるとスパートがかかり始める。セックスバトルがクライマックスに突入している証拠だ。

*5:特に呪文詠唱の仕組みは直感的に理解でき、そのため詠唱割り込みのロジックもすんなり受け入れられるのですごい。

*6:媚薬スライムを希釈したもので退廃的快楽を喚起する。ダメ。ゼッタイ。

*7:こうして人間とスライムのピストン運動による全く新しい動力源、つまりスライムパンクが爆誕した。

*8:この時生まれた膨大な快楽の余波により大勢の人間が死んだ。

*9:と言ってしまっていいのか分からないが女女ではある。間に挟まれた男はおチンポにされ死ぬ。