漫画『僕の心のヤバイやつ』とラブソングのはなし
オタクにはイメソン文化というものがあるらしい。自分の好きな作品、キャラクターの境遇・関係性に対してタイアップでも主題歌でもない楽曲を「イメージソング」として当てはめる遊びだそうだ。つまり、幻覚でガンギマリしながら好き語りをする限界オタクが「ではここで一曲お聴きください、〇〇で××*1……」と昼休み放送部ジャックをすることだそうだ。これまでに自分のiPodのプレイリストで架空のフェスやライブのセトリを組むことはあったが*2イメソンなるものには理解が及ばなかった。が、つい先刻奇しくも自分もまたその仲間入りをすることになった。
つまり、僕ヤバだ。
【更新】思春期ラブコメ「僕の心のヤバイやつ」最新話が更新されました。陰は陽を見、陽は陰を見。
— 桜井のりお@僕ヤバ⑦8/8発売&TVアニメ化決定 (@lovely_pig328) 2023年1月24日
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— azitarou (@azi_tarou) 2023年1月24日
””””””新世界””””””じゃん…………………………
これはもう新世界ですよ。新世界。このBUMP野郎がよ……………。
新世界、初めて聴いたときは「あのBUMPがいまさらド直球なラブソングかよ~~~ケッ! なぁ~~にがバンプオブチキンだお前らの名前はもうバンプオブタイアップチキンだよ!!」とか思ったもんですがそれはそれとしてめちゃくちゃ良い曲でもあり、跳ねるようなメロディーも歯が浮きそうな歌詞も青春恋愛脳汁ダバダバなティーンエイジャーっぷりが本当にすごい。これが10年以上前にラフ・メイカーとか乗車権を歌っていたバンドのなれの果てか……?
泣いていても怒っていても 一番近くにいたいよ
なんだよそんな汚れくらい まるごと抱きしめるよ
ベイビーアイラブユーだぜ ベイビーアイラブユーだ
ちゃんと今日も目が覚めたのは 君と笑うためなんだよ
新世界というのはつまり、彼女と出会って世界が全く新しく見えるようになったということ。今まで「自分」しかいなかった世界に「彼女」が新しく加わったということ。 実際のところ世界そのものは変わってはいないんだけど、愛おしいと思う人がそこにいるだけで世の中の見え方がガラリと変わる、あるいは「彼女」を通して世界の新たな部分が見えてくる、「彼女」と出会い自分が変わったから世界の見え方もまた変化していく……。人ひとりとの出会いがこんなにも劇的なものになる、それが初恋、恋愛、青春、あるいは世の中のありとあらゆる甘酸っぱい概念、それらをひっくるめて「新世界」と表現するのは的を得た表現だと思う。こんなのもう……僕ヤバのイメージソングじゃねえか! どうなってんだこの世界はよォ~~!?
僕ヤバのイメソン候補を列挙してみる
これだけで話を終えるのもあんまりなので「いっそのこと僕ヤバでひとつイメソン・プレイリストでもつくるか~」と思い個人的に僕ヤバ力(ちから)のあるラブソングを列挙してみることにする。
ヒーロー / supercell
ryoといえばメルトに始まり、聴いてるこっちが気恥ずかしくなるくらい青臭さ全開の歌詞が有名だが、「オタクに優しいギャル」という言葉が生まれるよりも早く陰キャボーイ・ミーツ・陽キャガールをポップスに仕立て上げたことはもっと知られても良いと思う。
友達と喋ってるその子の笑顔は あまりに可憐で
その姿は思い描いた 漫画のヒロインのようだ
ひとめ見て恋に落ちた ホンキのホンキで好きになった
でもね僕の容姿じゃ きっと嫌われてしまう
正直言って歌詞そのものが黒歴史ノートと言って遜色ない。ラブソングと呼ぶにはあまりに出来過ぎで、現実には万に一つもない展開。上等である。だってこれは創作なのだから。「こうあってほしい」「こうなりたい」という希望の歌なのだから。
「私この人知ってる!」
周りは唖然 僕も呆然
「見ちゃったんだな あの机の絵をね
全部君が描いてたりするの?」
ああ!また笑われる だけどキミは
「ああいうの好きなんです」
少年少女に過酷な試練を課すことに定評のあるryoだが*3、これについてはリリース時より人類総オタク化が進行した現代においてはワンチャン有り得るかもしれない。未来は無限大だ。
君の瞳に恋してない / UNISON SQUARE GARDEN
はっきり言って俺はUNISON SQUARE GARDENのことをいけ好かないバンドだと思っているが、この曲もマジで「いけ好かねぇ~!」と思っている。なにしろ「君の瞳に恋してない」のである。別に「君に夢中」でもないし「君の手を握りたい」とも言ってない。男の方は全然グイグイ来てない。
せめて君ぐらいの声は ちゃんと聞こえるように
嵐の中濡れるくらい 構わないからバスタオルは任せた
そのくせ嵐の中に飛び出すくらいは平気でやるのだ。しかもこいつ傘とかレインコートとか長靴の用意もしていないときたマジでこいつ相手のこと好きじゃん。その一個前に「せめて君ぐらいの声は ちゃんと聞こえるように」とかめちゃくちゃスカしたこと言ってるくせによォ~!
君の瞳に恋なんて してはないけどわかる
大事なもの失った時 壊れちゃってしまってしまった気持ちは
青春真っ盛りの恋愛模様ではなく、一通りの酸いも甘いも経験した後の、覚めた気持ちもそこにはある。あるけどお互いの信頼関係があってこそのスカしたノリであることが伝わってくる。ファンクのエッセンスすら乗りこなすマジでいけ好かない最高のバンド、それがUNISON SQUARE GARDENなのだ。
アイネクライネ / 米津玄師
陰キャ男子であれば誰しも一度はアイネクライネを聴いて枕を濡らしたことがあると思うが*4、それはそれとして大ブレイクしどんどんメジャーになっていって無事光堕ちする過程は市川京太郎と一緒である*5。よもや二度三度も隣の席のリアル系根暗陰キャ男子が光陰併せ持つスーパー系陰キャ男子にクラスチェンジするのを目撃する羽目になるとは思わなんだ……。
消えない悲しみも綻びもあなたといれば
それでよかったねと笑えるのがどんなに嬉しいか
目の前の全てがぼやけては溶けてゆくような
奇跡であふれて足りないや
あたしの名前を呼んでくれた
あなたの名前を呼んでいいかな
アイネクライネはグッドエンド米津玄師であるが、バットエンド米津玄師はハチ時代のリンネ、ビターエンド米津玄師は春雷があるので闇の僕ヤバおじさん*6もご安心だ。
ラブソングを殺さないで / ピノキオピー
巷で流行りのラブソングが 見事にあなたをスルーして
みんなの心へ突き刺さる それも ひとつの愛のカタチ
ラブストーリーとは人生の余興である。古今東西、紀元前よりずっと昔から、くだらない男女のいさかいが絵画に、演劇に、小説に、音楽に記録されて現代に伝わっているのが何よりの証明だ。そして「ラブソングを殺さないで」は人生の偉大なる音頭である。どんなラブソングプレイリストや失恋ソングDJMIXであっても、ラストにこの曲を挿入すればあら不思議、どんなにくだらない男女のいさかいであってもそれは人生に不可分なものだと思わせてくれるのだ。
空虚の坩堝に身を投げて 天涯孤独と唾吐いて
誰にも愛されず 灰になる それも ひとつの愛のカタチ
(終わりです)